たった一つの作品がその俳優人生を決定づけてしまうことがある。
あまりにも役柄がハマリすぎて、以降、似たような役柄が与えられる
もその作品を超えることができず、そのうち最初のイメージの周辺を
ウロウロするか、もしくは個性的と括られて悪役専門になっている。
まさしくクリストファー・ウォーケンはそういう俳優なのではないか
と懸念してからほぼ20年以上の月日が経ってしまった。
『ディア・ハンター』(78)のウォーケンはそれほど強烈な印象を放つ
ニック役に恵まれて世の男や女たちにアピールしたわけだ。自滅して
いく神経症的な青年。背景のベトナム戦争における極限状況という伏
線もあるにはあるが、ロバート・デニーロが行方不明になったウォー
ケンを救出しようと乗り出すも彼はすでにあちら側にいってしまい、
死のにおいさえ漂わせていたのだった。見ていて痛々しいほど破滅に
向かおうとするウォーケン。デニーロが太陽だとすると、ウォーケン
は月であった。最期のシーンは思い出すたびに「これがウォーケンの
すべてなのだ」と思ってしまうのはおそらく私だけではあるまい。ま
さにあの1本は彼にとっても金字塔(アカデミー助演男優賞も獲得)
だった。
その後、彼に回ってきた役はやはり孤高の人、さらに独特の個性を
デフォルメしたような悪役だった。しかし、その中でも彼らしさ、ニ
ックの悲劇を彷彿とさせるような作品がクローネンバーグ監督『デッ
ドゾーン』だった。交通事故によって相手の過去や未来を見通せる超
能力をもった青年役。アウトサイダーとして生きることの悲哀に絶妙
なラブロマンスを絡めた私のお気に入りである。また、近年はタラン
ティーノ監督『パルプ・フィクション』で異彩を放ち、性格俳優とし
てますます磨きがかかってきた感がある。
1943年3月31日、NY州ロングアイランド生まれというから、なんと
58歳!(2001年7月現在)にしては若々しい。年齢不詳のような雰
囲気も彼の魅力の一つだろう。
瞳孔が開いたような落ちくぼんだ目、人を寄せつけない冷たい雰囲
気には虚無と狂気が同居するニューヨークが似合う男。一見すると、
ひょろひょろした痩身のイメージがあるが、ダンスで鍛えた柔軟な身
のこなしがとても優雅である。ジェームズ・アイボリー監督の3つの
ショートスートーリーからなるダンスホールを舞台にした『ローズラ
ンド』では彼のダンスシーンを堪能することができた。そんなウォー
ケンだが、彼の笑い顔が意外にもかわいらしいのが雰囲気とのギャッ
プがあって興味深いところでもある。そして、父親役がハマっていた
テレビ映画「潮風のサラ」、これも意外性のウォーケンということで
私はひそかに拍手を送っていたのである。とにかくニックの十字架を
背負いながらも息の長い俳優であってほしいと願うばかりである。
蛇足:私、ウォーケンのサインを持っているのが自慢(彼にインタ
ビューした友人がもらってくれた)。色紙のすみに力なく書かれたサ
インなのだけれど。