(3)ニコラス・ケイジ

スター街道を邁進中、強烈な個性はどこへ?

 都会の夜をさまよう孤独な男女の恋愛を描いたマイク・フィッギス
監督の『リービング・ラスベガス』(95)に主演してオスカーを射止め
てからというもの、順風満帆のスター街道をひた走っているニコラス・
ケイジ。確かにあのアルコール中毒男のシリアスな演技には目を瞠る
ものがあった。仕事も家庭も捨てて不夜城ラスベガスにやってきたハ
リウッドの脚本家と娼婦との間に芽生えた愛。追いつめられて深海に
漂う刹那の男と女の関係は逆説的な解放を意味する。だから、たとえ
結末が悲惨なものだとしても、そこに愛の帰結を見ることができるの
だ。ニコラス・ケイジの酔っ払いぶりがなんと幸福そうに見えたこと
か。
『リービング・ラスベガス』は情念たっぷりの恋愛ドラマではない。
フィッギス監督は距離感をもってT大人の恋愛Uを描いたのである。
そして、映像とともに音楽も素晴らしかった。ミュージシャンだった
フィッギスが音楽を担当し、旧知の仲でもあるスティングがスタンダ
ード・ナンバーTマイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴUTエンジェ
ル・アイズUTイッツ・ア・ロンサム・オールドタウンUの3曲を歌
っているし、元イーグルスのドン・ヘイリーも名曲Tカム・レイン・
オア・カム・シャインUで渋い歌声を披露している。音楽にのせて映
画が出来上がったというような「はじめに音楽ありき」の作品だ。サ
ントラ盤を聴きながらこの文章を書いていると、どっぷりと世界に浸
ってしまう。

 ニコラス・ケイジのことを書こうと思って、つい前置きが長くなっ
てしまったのは、彼にとって一期一会の作品は、後にも先にも『リー
ビング・ラスベガス』以外にないだろうという勝手な思い込みを書き
記しておきたかったのである。
 オスカー受賞後は当然のように主演作が続出。しかもヒット狙いの
アクションものばかりで、わたしとしては少々寂しい思いをしながら
もファンであるがゆえ、『ザ・ロック』(96)、『コン・エアー』(97)
『フェイス・オフ』(97)など次から次へと公開されるたびに映画館へ
足を運んだ。作品的には面白いものもあったが、彼でなくてもいいよ
うな役ばかりだったので、なぜかコミカルな味わいを見せていた昔の
ケイジが妙に懐かしくなったのである。

 1964年1月7日、カリフォルニア州ロングビーチ生まれのニコラス・
ケイジは叔父のフランシス・F・コッポラ監督の『ランブル・フィッ
シュ』(83)で映画デビューを果たしたあと、『バーディ』(84)でベト
ナム退役軍人役で演技派として注目を浴び、ノーマン・ジュイスン監
督『月の輝く夜に』(88)では兄の婚約者と恋に堕ちてしまう
青年役がとてもよかった。また、デビット・リンチ監督の話題作『ワ
イルド・アット・ハート』(90)の危ない男を演じても魅力的だった。
一方で、コメディ『ハネムーンINベガス』(92)のマザコン男を演じて
ぴったりハマっていたケイジも心地よかった。

 目も鼻も口もすべてが大きい、人のよさそうなマヌケ面!? そばに
いれば、何だかイライラしてついその横っ面を平手打ちするも、ポカ
ンとするだけで決して怒らず、すぐにニコニコしてしまう鈍感だが逞
しい男。愛情をこめてそう表現したい人なのだ。
 アクション映画に出るようになって、かつてのツヤがなくなってし
まったように感じるのはなぜだろう。ストーリーだけを追ったような
映画ばかりに主演していると、ケイジの魅力がどんどん色あせていく
と懸念するのは、わたしがただの心配性だからなのかもしれないが、
もう一度、人間を凝視した作品の中のシリアスだが、コミカルなケイ
ジに会いたいと思うのである。

●私的ベスト5
1.『リービング・ラスベガス』(95)
(監督:マイク・フィッギス 共演:エリザベス・シュー、ジュリアン・サンズ)

2.『月の輝く夜に』(88)
(監督:ノーマン・ジュイスン 共演:シェール)

3.『ワイルド・アット・ハート』(90)
(監督:デヴィット・リンチ 共演:ローラ・ダーン、ウィレム・デフォー)

4.『バーディ』(84)
(監督:アラン・パーカー 共演:マシュー・モディーン)

5.『ハネムーンINベガス』(92)
(監督:アンドリュー・バーグマン 共演:ジェームズ・カーン、サラ・ジェシカ・パーカー)


●Keityの採点
 ルックス★★★
 人気度★★★
 演技力★★★★
 アクの強さ★★★★★
★★★★★抜群!文句ナシ  ★★★★役柄しだい ★★★ほどほど   ★★がんばれ! トホホ〉

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