(6)デンゼル・ワシントン

優等生が己の殻を破って新生か?

 デンゼル・ワシントンのイメージを払拭する作品『トレーニング・デイ』
を観たのは、2001年10月だった。彼が出演している映画はほとんど観
ていたが、本数を重ねて観るたびに、確かに彼の作品選びには間違いは
ないし、その役柄はバラエティーに富んでいて、多彩なデンゼルに会え
てうれしいと思っていた。だがしかし、多彩な役柄のデンゼルを観なが
ら、少々の疑問がふつふつと沸いてくる自分にも気づき始めていたのだ
った。
 それは何か? デンゼルは多くの役にはまりながらも優等生でありす
ぎるのではないかという疑問である。それゆえ、多彩な役柄さえ、ワン
パターンに陥ってしまうのではないかという不安感がわたしの中で広が
っていたのだった。どんなに役柄を広げようと、己の殻を破っていかな
いかぎり、新しい発見はないのではないかと・・・。彼が挑戦する役柄
にはいつもファンを満足させるような新鮮さはあったが、冒険はなかっ
たのだと思う。かなり厳しいファンとしての意見である。

『ザ・ハリケーン』(99)は冤罪をはらそうとする苦悩のボクサーの話
で、これはもってこいの役柄だったし、実際、映画には静かな迫真力が
あった。そう、ファンはまさしくデンゼルであることに称賛の言葉を送
ったし、わたしもうれしかった。作品もよくできていた。おそらく、デ
ンゼルも自分らしさを発揮したのであろう。ますます優等生デンゼルを
印象づけた。しかし、本人が意識するしないにかかわらず、わたしのよ
うな欲張りなファンは「ここで完結されては困る」と思うのであった。
 そう、自己の解放しかないのだ。自己を確立した故のさらなる解放。
それが『トレーニングデイ』だったのではないかと思うでのある。この
作品、確かにデンゼルはメインキャストの最上、主役にあるが、実際は
若い警官役イーサン・ホークの視点によってストーリーが展開する。イ
ーサンがデンゼルに翻弄されながら、彼によって鍛え上げられていく苛
酷なトレーニングデイを送るという話なのだ。これでもかというくらい
に、デンゼルは若いイーサンを追いつめていく。二人の丁々発止のやり
とりがとても興味深いのもこの作品の魅力の一つであった。デンゼルは
意識的にイーサンの立役者となって、しかもかなりシビアな役どころで
奮闘していたのであった。だからこそ、非情なラストシーンには、デン
ゼル自身の解放があったのだと思えてならなかった。

 この作品を観ていない人にとっては、何言ってんのかと思われるかも
しれないが、それほどにデンゼルは捨て身?で、しかも気軽に?この役
柄を選んだのだった。その心意気がわたしにはとてもうれしかったので
ある。いい作品に出ることは俳優なら誰しも望んでいることだ。しかし、
そんなことを超越してデンゼルはあえて悪役、汚れ役に挑戦したのだろ
うと思うのだ。まあ、この役柄が悪であったのかはまた別問題(逆も真
なりというものね)。

 デンゼルはいわずと知れた黒人俳優である。わたしは黒人俳優が好き
である。古くは、シドニー・ポワチエがいた。彼の出演作品は少ないの
だが、ほとんど観ているだろう。なかでも好きなのは『いつも心に太陽
を』だった。高校教師役の彼が素敵だった。そう、わたしも彼に教わる
生徒だったら、あの蠱惑的な女生徒になっていたかった?
ポワチエは白人トニー・カーチスと共演した『手錠のまゝの脱獄』で黒
人初のアカデミー主演男優賞にノミネートされた。その後『野のユリ』
(63)で主演男優賞を獲得。このころは黒人たちによる公民権運動がます
ます盛んになった時代でもあった。その前年の62年には、かのキング牧
師が「この年を革命の年にしよう」と呼びかけてもいた。そう、キング
牧師は8月に「わたしには夢がある」という有名な演説を行ったのであ
る。
 そうした時代背景を見てもポワチエの出現は映画界にとって注目すべ
きことだった。ポワチエは67年に『夜の大捜査線』と『招かれざる客』
の2本に出演した。特に後者は黒人男性と白人女性との結婚がテーマの
作品。白人の女性を愛したらからには、白人社会が自分を受け入れてく
れるのを待っているしかないといった、黒人若者の苦悩を演じていた。
実際にポワチエは白人女性と結婚している。その相手はロベール・アン
リコ監督の『冒険者たち』で大ブレイクしたジョアンナ・シムカス。ま
あ、リアルタイムでこの映画を観た人、あるいは再上映で観た人のほと
んどといっていいほど、ジョアンナ・シムカスのファンになったと聞い
ている。夢のような映画に夢のような女として登場したからね。そう、
アラン・ドロンとリノ・バンチュラの二人にほのかな好意を寄せられる
という女冥利に尽きる役柄がジョアンナだった。モデル出身のスラリと
伸びた肢体、気品あふれるアンニュイで都会的な雰囲気。女性たちにも
好かれるタイプの女優だった。いま、こういうタイプの女優がいなくな
ったことは残念。

 デンゼルの話から遠くへ飛んでしまったが、黒人俳優を語るとき、や
はりデンゼル以前の時間の流れは欠かせない。そんなわけで(どんなわ
け?)デンゼルは、ポワチエの流れをくむ優等生なのである。しかも、
ポワチエよりもしたたかに時代の流れを読みながら映画界で生き抜くパ
ワーをもっている。
 ポワチエの時代には「白人と迎合する黒人」などと形容されたことも
あったが、いまはとてもポジディブにとらえられているので、デンゼル
はポワチエとは違ったアプローチで後輩たちを引っ張っているのだろう。

 わたしがデンゼルの作品に初めて出会ったのは『遠い夜明け』(87)、
そして『グローリー』(89)だった。内に秘めた強靱な意志の力に圧倒さ
れた。そのとき、思ったのだ。これでブレイクしても着実に歩んでいく
だろうと。そのとおりになって、とてもうれしい。デンゼルには包容力
がある。逞しい身体に宿る大きな魂がある。と勝手に想像しているだけ
で、こちらは楽しいのである???
 最後に『フィラデルフィア』(93)の弁護士役はヒューマンでユーモア
あふれる人間性がピカピカに光っていた適役だったことを書き留めてお
こう。
 そして、デンゼルは1954年生まれ、今年48歳である。なお、愛した
黒人俳優についてはデンゼルをはじめたくさんいるので追々書いていき
たいと思っている。

●私的ベスト5
1.『グローリー』(89)
 (監督:エドワード・ズィック 共演:マシュー・ブロデリック、ケアリー・エルウェス
  モーガン・フリーマン)

2.『ザ・ハリケーン』(99)
 (監督:ノーマン・ジュイソン 共演:ヴィセラス・レオン・シャノン)

3.『マルコムX』(92)
 (監督:スパイク・リー 共演:アンジェラ・バセット、)

4.『フィラデルフィア』(93)
 (監督:ジョナサン・デミ 共演:トム・ハンクス、ジェイソン・ロバーツ)

5.『クリムゾン・タイド』(95)
 (監督:トニー・スコット 共演:ジーン・ハックマン)

●Keityの採点
 ルックス★★★★
 人気度★★★
 演技力★★★★
 アクの強さ★★★
★★★★★抜群!文句ナシ  ★★★★役柄しだい ★★★ほどほど   ★★がんばれ! トホホ〉

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