(9)ジョニー・デップ

異端の輝きを秘めた男の目

 3年前、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』のスパロウ船
長役がとても魅力的だったため、老若男女の支持を得て人気スターになってしまっ
たジョニー・デップである。喜ばしいかぎりだが、昔からのファンとしては戸惑
いを隠せなかったというのが正直なところだ。そして、この夏には続編『パイレ
ーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』が公開される。続編の製作
は当初から予想されたし、再びあの特異なキャラクター、頼もしいスパロウ船長
に会えるのは確かにうれしい。
『パイレーツ・オブ・カビリアン』に登場するまで、ジョニー・デップが出た映
画はそれほど大衆には受けなかったのだ。映画館は土日でもいつも空いていて、
寂しく思ったりもした。それがどうだろう。あの映画以来、出演する映画の観客
動員数は確実に伸びたのである。

 2005年に公開された『チャーリーとチョコレート工場』は、日本でも大ヒッ
トした。なんと、公開の40日目で動員数343万人、興行収入44億円を突破し、
ロングランを続けていたのだ。この作品の公開に先駆けて監督のティム・バート
ンとジョニー・デップが来日したときのファンの熱狂ぶりをテレビで観て、大い
に驚かされた。また、ティム・バートンにしても一部熱狂的なファンをもつカル
トな異才監督の印象だったが、彼の作品の中でも群を抜く大ヒットとなり、本人
がいちばん驚いたのではないだろうか。ロアルド・ダールのベストセラー「チョ
コレート工場の秘密」に挑んだことも成功の要因だろう。とはいうものの、ジョ
ニー・デップとティム・バートンとのコラボレーションは『シザーハンズ』(90)、
『エド・ウッド』(94)、『スリーピーホロウ』(99)、そして『チャーリーとチョ
コレート工場』が第4作目となり、よほど二人の相性はいいのだろう。
 白塗り、ボブヘアで登場するジョニー・デップを見て、つくづくこの人は表現
方法はちがってもT異端の人Uであることにこだわりつづけているのだなと思っ
た。密かなファンとしては、大ヒットした『チャーリーとチョコレート工場』や
『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』を尻目に、ジョニー・デ
ップのことを語りたいと思うのである。

 初めてジョニー・デップの映画を観たのは『シザーハンズ』だった。年老いた
発明家がつくり出した未完成の青年エドワードというのが彼の役柄だった。ボサ
ボサに逆立った長髪、白塗りの顔で目の回りにパンダのようなアイシャドウを塗
り、黒のレザー服に身をつつみ、両手にはハサミがついていた。最初は、素顔を
表すようなシチュエーションも期待していたのだが、美しい映像と奇想天外な物
語が進行するにつれて、この奇妙な心優しい青年に感情移入してしまい、悲しい
結末に辿り着いたときには、「おお、エドワードちゃん。あなたをしっかりとこ
の胸に抱きしめたいよ」などと母性本能むき出しで涙していたのだった。目と体
全体で静かな感情を表現する演技は見事だった。このときの彼の目の悲しい表情
(演技)は、白い仮面を剥がされた?あとに続く作品群でも印象を残したものだ
った。
 そして、『ギルバード・グレイプ』(93)である。24歳で家のすべてを背負う
青年役を演じたこのジョニー・デップと出会わなければ、わたしは彼の作品を見
続けることはなかっただろう。それほど、この作品の演技、役柄がジョニー・デッ
プの存在そのものだったのである。巨体の母を守り、脳に障害をもつ弟を守って、
気がつけば青春を失っていたという青年の目に宿る悲しいけれど優しい光にわた
しは心打たれた。ジョニー・デップの静かな目の演技である。人生とはときとし
て悲しいものだけれど、どこか滑稽でもあるのか。ラッセ・ハルストレム監督が
描いた「愛」の物語なのだ。ラストの家の火災はまさに「愛」の象徴だったのだ
ろう。
『妹の恋人』(93)も好きな作品である。人と関わりをもちたがらない少女の心
を開いていく風変わりな青年の役。ここでも無表情でありながら、目の表現と身
体パフォーマンスがユーモラスだ。
この2本は、ヒット狙いの映画ばかりが続いていたアメリカ映画界における白眉
だった。同じ93年にはフェイ・ダナウエーと共演した『アリゾナ・ドリーム』と
いう摩訶不思議な映画もあったことを付け加えておこう。

 その後、ジョニー・デップが出演した映画は実に多彩であった。巨匠、異才な
どさまざまな監督と組み、作家性の強い作品で存在感を示した。そして、演じる
たびに、豹変していった。『フェイク』(97)の囮捜査官役ではアル・パチーノを
向こうにまわし、抑制の効いた緻密な演技も評価されていた。おそらく彼でなく
てもよかったという作品は2、3本ではないだろうか。

 ジョニー・デップ自らが監督・主演した『ブレイブ』について、ひとこと。と
てもヘヴィだった。なかなか仕事につけない男が妻と子どもたちを救うために、
自分の命を金で買ってもらうことを選択した悲劇。父性としてのスケープゴート
か。少しばかり後味が悪かったのは、果たして、父の命との引き換えに、金を得
た妻や子どもたちが喜ぶであろうかという疑問が残るということ。TいけにえU
を「家族への愛」といってしまってもかまわないが、あまりにも切なく、悲しい
愛の結末なのだ。しかし、そういう意味においても心のどこかに引っ掛かり、奇
妙な印象を残す映画ではある。

 ここ5、6年を通して、心が揺さぶられた作品といえば、『耳に残るは君の歌
声』(00)と『ネバーランド』(04)だが、もうひとつ忘れられないのが、キュー
バの亡命作家、レイナルド・アレナスの自伝の映画化『夜になるまえに』(00・
ジュリアン・シュナーベル監督)に軍人役と女装男の二役でカメオ出演していた
ことだ。ほんのチョイ役なのだが、シュナーベルに頼まれて快く引き受けたとい
うから、彼らしい。
 思い起こしてみれば、ジョニー・デップはずっと異端の人を演じ続けてきた。
それは彼自身がアウトサイダーたちを敬愛していたことにも通じるのだ。マーロ
ン・ブランドーしかり、ジャック・ケルアックしかり、アレン・ギンズバーグし
かりである。そういえば、95年ころにケルアック『路上』の映画化の話(コッポ
ッラ監督の企画)もあったというが、結局、それは実現していない。

 ジョニー・デップは1963年6月9日、米ケンタッキー州で生まれた。チェロ
キー・インディアンの血を引く。10代でロックバンドを組んでLAに進出した。
なんと、ニコラス・ケイジのすすめで俳優の仕事を始めたという。ウィノナ・ラ
イダーをはじめ、いろいろ浮き名を流したが、フランス人歌手・女優のヴァネッ
サ・パラディとの出会いによってジョニー・デップの新しい人生が始まった。ア
メリカから脱出して、パリへ。99年、娘の誕生に立ち合い、医者にヘソの緒を切
らせてくれと頼んだジョニーは、その娘にTリリー・ローズ・メロディUという
なんとも可愛らしい名前をつけた。
「この時代でもシンプルな生活ができる場所」と語るフランスでの生活を続ける
ジョニー・デップは、もうすぐ43歳である。今後の展開がますます楽しみになっ
てきた。どんな役を演じるのか、これほどわくわくする男優というのは珍しい。

 蛇足ではあるが、ジョニー・デップのファンがこう言うのを聞いた。「長髪の
ジョニデが好きだけど、短髪はいまいち」と。わたしは髪型なんてどうでもいい
のである。悲しく沈んだ透徹した目の力があるかぎり、わたしは彼に釘付けでい
られるだろう。ところで、「ジョニデ」などと呼ぶのはやめてほしい。短縮する
ほど、長い名前ではないだろう、ジョニー・デップ!

●私的ベスト5
1.『ギルバート・グレイプ』(93)
 (監督:ラッセ・ハルストレム 共演:ジュリエット・ルイス、レオナルド・ディカプリオ)

2.『ネバーランド』(04)
 (監督:マーク・フォースター 共演:ケイト・ウィンスレット、ジュリー・クリスティ)

3.『エド・ウッド』(93)
 (監督:ティム・バートン 共演:マーチン・ランドー、サラ・ジェシカ・パーカー)

4.『耳に残るは君の歌声』(00)
 (監督:サリー・ポッター 共演:クリスティーナ・リッチ、ケイト・ブランシェット)

5.『フェイク』(97)
 (監督:マイク・ニューウェル 共演:アル・パチーノ、マイケル・マドセン)  

●Keityの採点
 ルックス★★★★
 人気度★★★★★
 演技力★★★★
 アクの強さ★★★★
★★★★★抜群!文句ナシ  ★★★★役柄しだい ★★★ほどほど   ★★がんばれ! トホホ〉

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