静寂の向こう側

晴れわたった五月の空の下、草いきれに酔いながらもくもくと歩いた。
少しずつ、日常的な時間が身体の中から抜け出し、
拡散して落ち着きをなくしていた雑念の数々が
ひとつに丸まって想念を形づくる。
人々の声もはるか遠くに霞み、 ただ、歩いている自分がそこにいた。
この土地の歴史を学んでからどれだけの年月が経っただろう。
山寺の和尚さんの経をよむ声が耳に届いたような気がした。
名も知らぬ山草たちの心地よいおしゃべりも
涼やかな小川のせせらぎも鳥たちのさえずりも
すべてが静寂の世界に融和して、時間が空間を生みだす。
やがて、想念さえも静寂の中へと消えていった。〈北鎌倉にて〉

(1)  (2)  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8)  (9)  (10)  (11)  (12)  (13)  (14)  (15)
(16)  (17)  (18)  (19)

HOME/MENU