静寂の向こう側
晴れわたった五月の空の下、草いきれに酔いながらもくもくと歩いた。
少しずつ、日常的な時間が身体の中から抜け出し、
拡散して落ち着きをなくしていた雑念の数々が
ひとつに丸まって想念を形づくる。
人々の声もはるか遠くに霞み、
ただ、歩いている自分がそこにいた。
この土地の歴史を学んでからどれだけの年月が経っただろう。
山寺の和尚さんの経をよむ声が耳に届いたような気がした。
名も知らぬ山草たちの心地よいおしゃべりも
涼やかな小川のせせらぎも鳥たちのさえずりも
すべてが静寂の世界に融和して、時間が空間を生みだす。
やがて、想念さえも静寂の中へと消えていった。〈北鎌倉にて〉
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