秋のおわりに

新千歳空港に着いたのが午前九時前だったせいか、
いつもとはちがう清々しさを感じたものだった。
秋も暮れていく一方のこの時期の帰省は十年ぶりのことである。
今後のことをいろいろと考えなければならなかったが、
一週間の滞在は母とのんびり過ごそうと思っていた。
実際にそのとおりの気楽な毎日であった。
母とともに九月に亡くなった伯母をお参りするため、
久しぶりに従姉妹の家を訪ねた。
夜の外出はひかえ、朝昼晩の食事をつくった。
母はわたしがつくったものを「おいしい」と喜んで食べてくれた。
もう、何年もそうやって過ごしているような感じがした。
寒い朝。庭いちめん薄化粧の雪。
たんぽぽは雪を払い除けるようにして黄色く輝いていた。

バスと地下鉄を利用して中心部に出かけると、
昔、札幌で生活していたことが甦り、当時の時間に戻ってしまったような感覚に陥った。
我が人生において、東京生活がいちばん長くなってしまったというのに、不思議であった。
東京での生活は忘却の彼方へ。
映画のレディスデイに友人から映画に誘われた。
早起きして観たのはテリー・ギリアム監督の「ブラザーズ・グリム」である。
観たいと思っていたのでちょうどよかった。
ギリアムにしてはおとなしめの演出と思いきや、さすがダイナミックな映像に圧倒された。

「水滸伝、ついに終わってしまったわ。ほんとうに面白かった」と母がつぶやいた。
「毎回、楽しみにしていたものね。少し寂しくなるね」と娘がいった。
二〇〇〇年十月から刊行が始まった北方謙三「水滸伝」十九巻は五年の歳月を経て、
この二〇〇五年十月に完結したのである。
母は夢中になって読んでいた。そのたびに電話でも「水滸伝」の話が出た。
そして、わたしは母が読んだこの「水滸伝」十九巻を読もうと思ったのである。
登場人物が多いので、果たして持続できるかどうか心配ではあったが、まずは第一巻から。
帰京する車中で、機内で夢中になってしまった。面白いのである。
すべて読み切るのにそう時間はかからないような気になったが、そう甘くはないだろう。
いや、それよりなにより、五年の歳月をかけて、
次の刊行を心待ちにしながら読んでいた母の気持ちを大事にしながら、
やはり、ゆるりとしたペースで読もうと思ったのである。

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