子ども時代が甦る。二人の弟とはよく遊んだ。自分が女子だという自覚がまる
でなかった。チャンバラごっこ、相撲、メンコ、ビー玉、かんけり、石けり、鬼
ごっこ、かくれんぼ、戦争ごっこ、木登り、雪合戦。遊んでは喧嘩し、最後はわ
たしが父親に叱られた。押し入れで籠城すると、末弟が「お姉ちゃん、晩ご飯、
持ってきたよ」と盆をふすまの外に置いてくれる。「腹が減ってはいくさはでき
ぬ」とばかりに平らげて、再び押し入れへ。虫のいい籠城である。
三兄弟全員が親に叱られてわたしの部屋に籠城したこともあった。年功序列の
ためわたしが指揮官である。一人に食料を調達させ、もう一人には毛布や枕を運
んでくるよう指揮をとる。朝まで籠城するつもりだった。
父親がやってきて「馬鹿なことしてないで、さっさと出てきなさい」とふすま
を開けようとするので、三兄弟は引き戸が開かないよう必死になって心張り棒を
押さえるのだ。いま思えば、親に叱られることも楽しかった。兄弟喧嘩も楽しい
思い出である。
いつのまにかわたしは三兄弟の長男ではなくなっていた。女子なのだと自覚し
たときから、二人の弟をもつ長女になっていた。それが思春期というものなのか。
二人の弟のことを客観的に見ていた。背格好も顔も性格もすべてがちがう二人の
弟である。
兄と弟。旧約聖書のカインとアベルの物語が浮かんでくる。神に愛された弟に
嫉妬した兄が弟を殺してしまうというこわい話。スタインベックの小説『エデン
の東』はまさに、カインとアベルの物語を題材にしている。ジェームズ・ディー
ンの映画を観たときのショックは忘れない。思い出すたびに涙がこみ上げてくる
ほどだった。わたしは兄弟を描いた映画や小説が好きになったのである。
ロッド・スタイガーの兄とマーロン・ブランドーの弟が強烈な印象を残した映
画『波止場』。消防士の兄弟を描いた『バックドラフト』は、兄のカート・ラッ
セルと弟のウィリアム・ボールドウィン(この映画を観て、わたしは消防士にな
りたいと思った)。じっくりと思い出してみよう。
友人知人にも二人兄弟はいる。聞けば、ほとんどが、顔も性格もちがう兄弟ば
かりである。そういえば、さきほど三選出馬を表明した都知事にも俳優の弟がい
た。兄が書いた小説もドラマ化されたようだが、ほとんど興味がわかなかった。
おかしなものである。
弟から届けられたりんごを食べたらいろいろと思い出し、カインとアベルの話
にまで及んでしまった。さて、甘い王林を食べよう。こうして、りんごを食べる
たびに、かつて出会った兄弟たちの物語に思いを馳せることであろう。
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪降りつむ
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪降りつむ
三好達治「雪」