rensai画像 (35)

「小説が書けなくなったときこそ、書くべきことがあふれ出てくる。しかし、実
際に書けないのだから、困るんだな」
 それは芝山が読んだばかりの短編小説に登場する老作家が出版社の編集長に語
る台詞である。老作家はそのあとをこう続けた。
「ただ、机に向かっていても詮ないので、散歩に出かける。すると、面白い光景
に出会う。帰宅してから、忘れないうちに書き留めておこうと思って一気に書く。
しかしね、それはただのメモになっているんだね。メモだよ、メモ。そうしたメ
モがたまっていく。まるで、ほこりがたまるようにね。たまったほこりを丸める
と、テニスボールくらいの大きさになっているんじゃないかな。ただし、成形さ
れたボールではないのだね。書くべきことはあっても、小説にしてやれないのだ
から厄介なもんだね。この先、何年生きるかわからんが、すべてに知らんふりし
ているのが一番かな」
 忌憚なく語る老作家の話を聞いていた編集長は動じることなく、「そのテニス
ボールを思いきり打ってみませんか」と返すと、「いやだね。そんないびつなボ
ールはどこに飛ぶものかわかったもんじゃない。誰にも受けられないに決まって
いるさ。いや、受けないだろうね」などと老作家はひねくれたことを言って笑い
飛ばす。ここでは、「受けない」は「売れない」という意味を含んでいた。老作
家とは10数年のつきあいになる編集長は無理に書かせる方向へ話を持っていって
も、すべてを見透かされているような気がしたので、「いつでも待っていますよ」
とだけ伝えた。
 それからまもなく老作家は断筆を宣言した。書くべきことを形にすることから
解放されて時間がたっぷりできたので、毎日のように電車を乗り継いでは知らな
い街を散策するようになる。
 雨の日も風の強い日もそして猛暑の日も老作家はノートと万年筆や色鉛筆を古
びたショルダーバッグにしのばせ、一人で街に出かけては目に映る光景を書き留
めたり、スケッチしたりするのだ。それらは小説のための創作ノートではなく、
また誰に見せるわけでもなく、彼だけの密かな楽しみを映し出すものだった。
 散策は作家の永井荷風を意識していたわけではなかったが、「たまには二人で
歩きましょうよ」と言う妻を伴って散策すると落ち着かず、やはり、一人のほう
が気楽だった。
 東京のはずれにある小さな街の神社に行ったときのことである。老作家は石段
を降り切ったと思った瞬間に、最後の一段を踏み外して転倒した。脳震盪を起こ
したため、意識を失った。幸い境内にいた人に助けられて救急車で病院に搬送さ
れた。しかし、大腿骨を骨折するという重傷で入院生活を余儀なくされるのだ。
 老作家は電車に乗って自由に歩く楽しみを失いはしたが、相変わらずノートと
万年筆と色鉛筆だけは放さなかった。ベッド上で、あるいは車椅子に乗って病院
の中を散策してはスケッチを続けた。電車に乗って出かけていたときとは違って
不自由だったが、視界が狭くなった分だけ、くっきりと色濃く見えてくるものが
あったのだ。書くべきものが浮かび上がって見えてきたところで退院した。
 そして、日常に戻ってからは猛烈な勢いで原稿を書き始めたのである。半年で
原稿用紙2000枚、さらに1000枚を書くという驚異的な枚数で、その間は編集長が
たびたび彼を訪れては、「面白くなってきましたね」「ラストスパートですね」
などと言って原稿を受け取る。すでに小説は出来上がっているようなものだった
が、老作家の筆力は衰えることなく、続きを書いていくのである。
 老作家の様子を見てさすがに編集長はぎょっとなり、「いい作品が出来上がり
ました。お疲れさまでした」とねぎらうのだが、「いやいや、まだまだ続くのだ」
と物語を完結させない。
 実は編集長は密かに出版の準備を進めていた。初校ゲラの校正をしていた若い
女性編集者が「これは新境地ですね。とても面白いです」と言うのだが、編集長
としては複雑な思いだった。彼の判断で物語を完結させてしまっていたからだ。
いや、すでに完結された作品であることに、老作家が気づかずに筆を進めている
という事実をどう説明したらいいものか。また、これが露見することを恐れもし
たのだ。一方では、これは編集長としての適切な判断であるという自負もあった。
また、続きの原稿についてはあらためて刊行してもいいだろうと思っていた。
 ところが、事態は急変した。老作家は心筋梗塞のため帰らぬ人となった。事実
上、絶筆である。編集長は、初七日が過ぎたころに老作家の家を訪れ、妻にくだ
んの出版についての経過を説明し、途中になっているはずの500枚ほどの最後の
原稿の束を受け取った。帰宅してから原稿に目を通してみた。原稿用紙の升目か
らはみ出した文字はかなり乱れていた。そして、最後の行に大きく乱暴に書かれ
た「骨折り損のくたびれもうけ」という言葉に、この編集長が唖然としてしまう
ところで、この小説は終わっている。

 この作品を書いたのは短編小説の名手と言われた作家で、すでにこの世にはい
ない。どうということのない短編小説かもしれない。むしろ、悪ふざけのような
オチのついた通俗的な小説でもある。
 芝山はこの小説の曖昧模糊としたようなあっけない結末が妙に気に入った。老
作家の人生にはピリオドが打たれてしまったが、書き続けることが彼の終わりの
ない旅だとも解釈できた。老作家が人生最後の1冊に命をかけたとは思われない。
彼は取り憑かれたように書くためだけに、命果てるまで書き続けただけのように
思われる。
 それにしても、ほとんど短編小説しか書かなかった反時代的とも思われる作家
が晩年、エンドレスな長編を書き続ける老作家を生み出して短編に仕上げたとい
う点は注目すべきだと芝山は思う。しかも、話の最後には「骨折り損のくたびれ
もうけ」を引用するなど、なんとも皮肉に満ちたメタファーであることか。読み
手の想像さえ超えている。一種のブラックな笑いを誘うのである。
 どのようにも解釈できる小説だ。続きはどうなるのだろうか。老作家の大長編
は予定どおりに出版されるのだろうか。あるいは、遺作として編集されるのだろ
うか。だとしたら、どのように? など、様々に想像してみることができるのだ
が、書き手にとってはそんなことはどうでもいいことだったに違いないと芝山は
考えた。

 魚の小骨がのどに引っかかったような感覚はその短編小説の読後感から来るも
のだったのか、あるいは無為に過ぎていく日々の倦怠感とそれにからみつく麻美
という存在に対するジレンマであるのか、芝山は混沌を抱えたままだ。
 原稿依頼はめっきり少なくなり、やがてぱったりと途絶えてしまったことに無
自覚だったわけではない。しかし、さすがにご機嫌伺いの電話やメールの類いま
でもまったく来なくなると、焦りよりもむしろ不気味さを覚えたのである。一時
期、切れ間がないほど原稿依頼をしてきたいくつかの出版社から何の音沙汰もな
いという事実は受け止められても、なぜこのようになったのか理解に苦しむのだ
った。
 例えていうのならば、朝に目覚めたら無人島に流されていたような、あるいは
犯してもいない罪を着せられて獄中につなげられたような。ひょっとして、これ
らはすべて出版界の陰謀なのかもしれない、などと妄想してみたほうが納得でき
そうだった。
 いずれ原稿依頼があるだろうといった淡い期待はすでにない。所詮は売れ行き
が悪くなったら、自然淘汰されていく世界であることはわかっていても、まるで
人ごとのように思えるのだ。
 ただし、名前を忘れられてしまったわけではない。リタイアしたわけでもない。
女性誌の連載が1本だけになってしまったが、作品を書き続けるしかないのだ、
と芝山は現実に戻る。
 その日が36回目の誕生日だということすっかり忘れていて、気がついたときに
は日が落ちていた。またひとつ年をとったというぐらいで、たいした感慨もない
まま、冷蔵庫から缶ビールを1本取り出して飲んだ。特に空腹でもなかったので、
食事を作る気にもなれず、中途半端な気持ちでパソコンの画面を眺めた。書き続
けるしかないという前提で、小説の続きを書こうとするのだが、何か釈然としな
いのである。芝山もまた終わりなき旅に出ているようだった。

 午後7時すぎ、インターホンの呼び出し音がなった。最終の宅配便でも来たの
かなといぶかりながら受話器を取ると、「クロカワです」と女の声がした。一瞬、
クロカワがどこの誰なのかわからなかったが、すぐに黒川麻美であることに気が
ついて芝山は仰天した。すぐに「どうぞ」とオートロックを解除した。何の前ぶ
れもなく、突如として麻美はやってきたのである。一体、どうしたというのだろ
うか。芝山はドキドキするどころか、予期せぬ出来事に唖然とする思いだった。
 玄関の外に出て麻美を待った。エレベーターのドアが閉まる音がかすかに聞こ
え、廊下の角から麻美は現れた。グレーのVネックのサマーセーターにタータン
チェックのパンツ姿の麻美は特に落ち込んでいる様子でもなかった。
「突然ですみません」
「散らかっているけど、とにかく上がって」
 麻美をリビングに通してから、芝山はあわててフロアーテーブルとソファの上
の物をひとまとめにして仕事部屋に運び、とりあえず座れるスペースを確保して
「どうぞ、楽にして」と言ってダイニングキッチンに向かった。そこも雑然とし
ていたが、片付けている場合ではないと、再びリビングに戻った。
「飲み物、何がいい? ビールかな、ワインかな、ウィスキーもあるけど、それ
ともコーヒーを煎れようか。あ、お腹がすいているんじゃないのかな。近くに食
べに行ってもいいけど」
 かなり動揺していると芝山は感じた。
「どうぞ、おかまいなく。お腹はすいていません」
「それじゃ、ビールにしよう。ぼくもちょうど飲んでいたから。このマンション
はすぐにわかった?」
「名刺の住所のとおりに探したんですけど、少し迷って一回りしました。目の前
のマンションだったのに、気がつかなかったんです」
「似たようなマンションがあるし、暗いとわかりづらいかもしれない」
 缶ビールとグラスをテーブルの上に置いてから、芝山はどこに座ろうかと迷っ
た。三人掛けのソファの端に腰掛けている麻美と並んで座るのも妙な具合だった
ので、ダイニングチェアを持ってきて、向かい合って座った。目線の高さが違う
ため、少しだけ見下ろすような格好になったが、ま、いいか、と2つのグラスに
ビールを注いだ。
 二人が手にしたグラスが触れ合って涼しげな音が生まれた瞬間、
「芝山さん、お誕生日おめでとうございます。36歳ですね」
 ここでも芝山は呆気にとられ、驚きを隠せずに麻美を見た。
「覚えていてくれたんだ。うれしいよ」
 言ったあとから、麻美の誕生日はいつだったのだろうか。芝山は思い出せない。
確か、10月だったような。いや、11月だったかな。なんてことだ。聞くのも野暮
だし、触れないのも失礼か。くるくる空回りする思考の軸。黙ったままビールを
一気にあおるように飲み、
「それにしても突然やってきたんで、最初は何かあったのかなと思ったけれど、
見た感じでは元気そうなんで安心したよ」
 麻美はグラスをそっとテーブルに戻し、まっすぐな視線を芝山に向けた。
「わたし、芝山さんに会いたかったんです。会ってお話がしたかったんです。気
がつけば、きょうはお誕生日で、もしかしたら、留守かもしれないと思ったので
すけど、電車に乗ってしまいました」
 内心ドキッとした芝山は何とも答えようがなく、「それはうれしいよ」と言っ
たきり、次の言葉が出てこなかった。ついこの間の電話では紋切り型の口調で芝
山を混乱させた麻美が、今度はまるで人が変わったように目の前に現れ、予期し
ていなかった言葉で翻弄する。
「本当は電話を掛けてから来ようと思ったんですけど、なんとなく電話できなく
て。ごめんなさい」
「いや、あやまらなくてもいいよ。最近はだいたい自宅にいるしね。ぼくのほう
こそ、電話しなくて悪かったと思っている。誕生日に突然来てくれるなんて、ド
ラマチックだ。36歳になってもうれしいものだな」
  芝山のこぼれた笑い声が宙に浮いた。
「新しい小説はいつごろ出版されるんですか?」
「さあ、いつになるかわからないな。まだ途中だから。来年か、再来年か」
 芝山としてはどこからも注文が来ていないので、答えようがない。
「その小説は以前に教えていただいたミステリー仕立ての家族の物語ですか?
書き上げたら読ませていただけるという作品ですよね‥‥」
 芝山はハッとした。そのようなことを言ったことさえ忘れていたからだ。思い
ついたことが調子よく次から次へと飛び出していたのは、楽しく弾む会話の流れ
に乗じていたからなのだろう。
「そうだったね。なかなか進展しないけれど、書き上げたら読んでもらうよ」
 素っ気ない物言いだったのだろうか。麻美は「いいえ、別にいいです。やっぱ
り、本屋さんに並ぶのを楽しみにしています」と言って微笑んだ。
 ぎこちない会話を交わしていることを意識しながら、芝山は麻美の来訪をうれ
しく思うより、やはり予想外の行動に驚いたままで、漠然とした怖さにも似た感
情も否定できなかった。

 空気のよどみは時間を停滞させる。相変わらず思考の軸がくるくると回転し、
的確な言葉を探し求めていた。すでにビール缶が空になっていたので、芝山は新
しいものを冷蔵庫から取り出してグラスに注いだあと、「ちょっと、つまみを用
意しよう」と立ち上がる。「わたし、手伝いましょうか」の麻美の声が小さく聞
こえ、芝山は「大丈夫。皿に盛るだけだから」と答えてキッチンへ。まるでキッ
チンは避難所だ。
 一枚の大皿に3種類のチーズとロースハムやソフトサラミやクラッカーを、ガ
ラスのサラダボールにはスティック野菜とぶつ切りにしたキャベツをのせて、マ
ヨネーズと味噌を混ぜ合わせたドレッシングを手早く作った。
 それらをリビングに運んでテーブルに並べる。麻美は立ち上がってソファの後
ろの壁に掛かった一枚の絵をじっと観ていた。それはグランドピアノのそばで毛
足の長い犬が寝そべっているというシンプルな構図の小さな版画で、芝山が広告
代理店にいたときに関わった展覧会で買ったものだった。
「その版画、いいでしょう? 10年以上も前に買ったんだけど、当時はほとんど
無名の作家だった。今ではけっこう売れっ子になっていて、表紙や挿画を手がけ
ているんだよね」
「柔らかい線がいいですね。犬も気持ちよさそうに昼寝しているようだし」
 後ろ向きになったままの麻美が言う。このような会話の糸口をつかむと、自然
に話の流れが生じるような気がした。麻美はこのおれとたわいのない話がしたく
てやってきたのであるなら、どれほどよかったか。そうでないことは芝山にも敏
感に感じ取れた。学生時代の女友だちがやってきたのとはわけが違うのである。

「有り合わせのつまみだけど、飲もう」
 麻美はソファに座るなり、「わ、おいしそうですね」と言いながらグラスのビ
ールを飲み干したので、芝山はすかさず新しいビールを注いだ。
「まめに料理するんですね」
「誰も作ってくれる人がいないから、作るしかない。でも、最近はコンビニの弁
当で間に合わせてしまうこともあるよ。それだけはやめようと思っていたんだけ
どね」
「お仕事が忙しいときは仕方がないですよね」
 そんなわけないだろう、おれは、暇なんだよ。芝山は失笑する思いだった。
「いや、ただ面倒くさいだけだよ」
 芝山はつい投げやりな言い方になってしまい、浅く反省をする。麻美はそんな
芝山を見やってから、ドレッシングをつけたキャベツをパリパリと音をさせて食
べた。
「ところで、西沢さんとの復縁話はどうなった? 先方のお父さんとは結論が出
たの?」
 不意に飛び出した言葉だったが、決して不自然な質問ではなかった。
「最初から結論は出ていたのだと思います」
「それはどういうこと?」
「復縁なんて無理な話だということです。わたしさえ、迷いを捨てればいい話だ
ったのです」
「それで晶くんも西沢さんには会わせないことに決めたの?」
「いいえ。やっぱり、晶にとっては父親だし、西沢も息子に会いたいのだろうし。
近いうちに会わせます。父は晶が混乱するからと言って反対しましたが、わたし
は大丈夫だと思っています」
 麻美はビールを一気にあけて、静かにグラスをテーブルに戻した。そして、遠
くを見つめるような目をした。その表情が彼女をより美しくさせた。
「決めたんだね」
 それ以上、返す言葉が見当たらなかった。晶の顔が浮かんだ。病床にある父親
と対面する光景を想像してみた。晶はどんな反応を示すのだろうか。

 そのとき沈黙を破るように電話が鳴った。一瞬、電話には出ないでおこうと思
ったが、芝山は気になったので受話器を取った。
「芝山くん、いたのね。わたし、片岡よ」
 なんというタイミングの悪さなんだろうか。
「どうしたんだい?」
「元気かなと思って、電話したのよ。いま、ZENのマスターを相手に飲んでいる
んだけど、もし煮詰まっているんなら出てこない? 気晴らしになるわよ」
 おそらく、この場に麻美がいなかったら、芝山は二つ返事で飲みに行っただろ
う。
「せっかくだけど、今、来客中だから、また今度にするよ」
「来客中なら、しょうがないわね。あー、わかった、女性客でしょう? 新しい
恋人ね。相変わらず、芝山くんはもてるわね」
「それほどでもないけどね」
「またまたご謙遜を。わたしの本のほうだけど、順調に進んでいるわよ。それじ
ゃ、また電話するわ」
 片岡真貴子の大きな声が消えて、受話器を戻すと部屋の静寂さが際立った。麻
美は顔色ひとつ変えず、背筋をピンと伸ばした姿勢を保っている。
「ビールでいいのかな。ぼくはウィスキーに変えよう」
「わたしもウィスキー、ロックで飲みたいです」
 ふわりと笑う麻美を見て、芝山の思考の軸が再びくるくる回り始める。今夜、
ここに、麻美がいるという現実。すべての背景を黒く塗りつぶして麻美だけを切
り抜いた生々しいほどの現実。昨日までの時間も明日から続く時間もすべて塗り
つぶされているようだった。
 芝山はキッチンでバーボンウィスキーのオンザロックを作りながら思う。久し
く来客もなく、一人だけの世界に埋没していたので、たまにはこんな夜も楽しい
のだろう。ところが、今夜は事情がちがう。おれは麻美の来訪に驚いたままなの
だ。おれに会いたかったと言った麻美の気持ちは正直なものかもしれないが、ア
ンバランスに突出した繊細な衝動、そのストレートさが怖かったのだ。

 ウィスキーに変えてから、芝山も麻美も少しずつ酔いが回り始め、舌もなめら
かになった。そして、芝山の小説の話や麻美が勤務する幼稚園の話など、あえて
核心を避けた話を続けていた。
「あら、もう10時になるんですね。わたし、帰ります」
 突然、バッグを持って立ち上がった麻美に芝山は驚いた。
「明日は土曜だ。今夜は泊まっていくといいよ」
                               (つづく)

 

  ←前ページへ 次ページへ→

  HOME/MENU